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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)150号 判決 1988年4月12日

原告 株式会社アオイ

被告 日本ポール株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六一年審判第五六三二号事件について昭和六二年六月二五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、別紙のとおり「アミロツク」なる片仮名五文字を横書きして成り、指定商品を商標法施行規則別表第九類「管継手、その他本類に属する商品」とする登録第一二八三三五二号商標(昭和四九年五月二八日商標登録出願、昭和五二年七月一一日設定登録、昭和六二年一〇月一九日存続期間の更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、被告は、昭和六一年三月二六日、原告を被請求人として、商標法第五〇条の規定に基づき、本件商標の指定商品中「化学機械器具」についての商標登録取消の審判を請求し(同年四月二八日同登録)、昭和六一年審判第五六三二号事件として審理された結果、昭和六二年六月二五日、「登録第一二八三三五二号商標の指定商品中「化学機械器具」についてはその登録は、取り消す。」との審決があり、その騰本は同年七月二二日原告に送達された。

二  審決の理由の要点

1  本件商標の構成、指定商品、及びその登録日は、前項記載のとおりである。

2  請求人(被告)は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由として、本件商標はその指定商品中「化学機械器具」について、継続して三年以上日本国内において使用されていない。よつて、本件商標の登録は、指定商品中「化学機械器具」について、商標法第五〇条の規定により取り消されるべきであると述べている。

3  被請求人(原告)は、「請求人の申立ては成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由として、被請求人は、「アミロツク」、「AMIROCK」なる商標を、化学機械中に組み立て使用されるが故に化学用機械器具の範ちゆうに入ると認められる「化学機械ワンタツチ継手」に使用していると述べ、証拠方法として、乙第一号証及び乙第二号証(本項における書証番号は審判手続における書証番号による。)を提出するとともに、右書証に関連する当事者尋問申請書をも提出している。

4  そこで審理するに、被請求人提出の各書証はいずれも商品「継手」に関するものであること明らかである。しかして、本件審判請求の趣旨は、指定商品中「化学機械器具」についての取消しを求めるところにある。

商標法施行令別表、そしてこれに基づき定められる同法施行規則別表によれば、「継手」は原則としてその用いられる機械器具の種類・用途にかかわりなく、一括して「機械要素」中に分類されているものであること明らかであり、たとえ、被請求人主張のとおりその取扱いにかかる「継手」が「化学機械器具」中に一部用いられるとしても、これをもつて前記商品区分中の「化学機械器具」についての使用があつたものと認めることはできない。

さらに、被請求人は「アミロツク」商標が「化学機械器具」とこれに用いられる「継手」に併存すれば商品の出所に混同を生ずると述べるが、かかる主張は本件審判において判断すべきことではないし、また「当事者尋問申請」についても、その内容が乙第一号証、乙第二号証に関係する「アミロツク」商標の使用状況に関するものであつてみれば、前記判断に影響を及ぼすものとはいえず、その必要は認められない。

以上、本件商標は本件審判請求の登録前三年以内に日本国内において、その請求にかかる商品について使用されていなかつたものと認めざるを得ない。

したがつて、本件商標の登録は、その指定商品中「化学機械器具」について、商標法第五〇条第一項の規定により取り消すべきものとする。

三  審決の取消事由

審決は、被告が審判を請求する適格を有しないことを看過し、かつ、本件商標が請求に係る指定商品について本件審判請求の登録前三年以内において使用されていなかつたものと誤つて判断したものであるから、違法であり、取り消されるべきである。

1  被告には、本件審判を請求する適格がない。

被告は、昭和五九年一〇月三一日、「アムロツク」なる片仮名文字及び「AMLOC」なる欧文字をそれぞれ横書きして成る商標(以下「被告出願商標」という。)について、第九類「乾燥機その他の化学機械器具、その他本類に属する商品)を指定商品として商標登録出願(昭和五九年商標登録願第一一四三一八号及び第一一四三一九号)しているが、被告出願商標の審査手続において、被告出願商標と本件商標とは全く相違する旨の意見書を提出しており、また、被告出願商標が本件商標とは外観、称呼及び観念のいずれにおいても異なる商標であることは明らかである。

したがつて、被告は、本件審判請求について利害関係を有しないから、本件審判を請求する適格がない。

2  原告は、本件審判請求登録日である昭和六一年四月二八日以前三年以内において、本件商標を付した化学機械器具の機器貫通部金具としての管継ぎ手及び器具を製造販売しており、訴外山武計装株式会社に納品された右管継ぎ手及び器具(ノズル)は化学機械器具である加湿器「ダンプエース」の部品として組み付けられている。

化学機械器具である加湿器の部品に本件商標が使用されているにかかわらず、第三者がその加湿器やその部品に本件商標と同一商標を使用するならば、右加湿器の取扱者又は需要者が加湿器及びその部品の保守、点検、修理等を製造元に依頼する場合にいずれの業者に依頼すべきか迷うことになり、正常の取引状態は破壊され、取引者又は需要者に混乱と被害を及ぼすことになる。

したがつて、本件商標は、本件審判請求の登録前三年以内に指定商品である「化学機械器具」に使用されているというべきであり、審決が「化学機械器具」中に一部用いられているとしても、これをもつて商品区分中の「化学機械器具」についての使用があつたものと認めることができないとしたのは誤りである。

第三請求の原因に対する認否及び被告の反論

一  請求の原因一及び二の事実は認める。

二  同三は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

1  被告は、昭和六〇年一二月一七日、被告出願商標につき、本件商標と類似し商標法第四条第一項第一一号に該当するとの理由により拒絶理由通知を受けた。

被告が右審査手続において、被告出願商標と本件商標とは相違している旨の意見書を提出していることは認めるが、被告出願商標につき出願公告すべき旨の決定がなされていない以上、被告は本件商標の取消審判請求をなすについて利害関係を有するものである。

2  原告は、本件商標を付した機器貫通部金具としての管継ぎ手及び器具を訴外山武計装株式会社に納品し、同社はこれを化学機械器具である加湿器「ダンプエース」の部品として組み付けているから、本件商標は化学機械器具に使用されている旨主張する。

しかしながら、管継ぎ手は、産業機械、動力機械、水力機械及び輸送機械その他の多種多様にわたる機器に用いられるものであり、これらの機器に部品として組み付けられた後は商品としての個性を失い、他の部品と渾然一体となつて、例えば産業機械等の別個独立の商品として転々流通するものである。

したがつて、原告が主張するように本件商標を付した管継ぎ手が加湿器の機器貫通部金具として訴外山武計装株式会社に納品され、同社においてこれを加湿器の部品として組み付けているとしても、これをもつて化学機械器具についての使用があつたとはいえない。

第四証拠関係<省略>

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  成立に争いのない甲第九、第一〇号証の各一によれば、被告は昭和五九年一〇月三一日、被告出願商標について本件商標と共通する第九類「乾燥機その他の化学機械器具、その他本類に属する商品」を指定商品として、商標登録出願(昭和五九年商標登録願第一一四三一八号、及び第一一四三一九号)したことが認められる。

そこで、本件商標と被告出願商標とを対比すると、本件商標である「アミロツク」からは「アミロツク」の称呼が生じるのに対し、被告出願商標である「アムロツク」及び「AMLOC」からはいずれも「アムロツク」の称呼が生じると認められるから、両者は称呼において第二音の「ミ」と「ム」とが相違しているにすぎず、これらを全体に称呼するときは語感において近似し、商取引上誤認混同を生じさせるおそれがあり、成立に争いのない甲第九、第一〇号証の各二によれば、特許庁審査官は、昭和六〇年一二月一七日付で被告に対し、被告出願商標について、「本件商標と同一又は類似であつて、その商標登録に係る指定商品と同一又は類似の商品に使用するものであるから、商標法第四条第一項第一一号に該当する。」との拒絶の理由を通知したことが認められる。

したがつて、被告出願商標は本件商標に類似する商標であつて、その指定商品について使用をするものに該当するとの理由で商標法第四条第一項第一一号の規定に基づき登録拒絶を受けるおそれがあるから、被告は本件商標について商標法第五〇条の規定に基づきその登録取消の審判を請求する利害関係を有するというべきである。

原告は、被告が審査手続において、被告出願商標と本件商標とは全く相違する旨の意見書を提出しているから、本件審判請求について利害関係を有しない旨主張するが、被告出願商標は、本件商標と少なくとも称呼において類似するものとされるおそれがあり、現に本件商標と類似する商標であることを理由として、拒絶理由通知がなされていること前述のとおりであるから、被告が原告主張のような意見書を提出しているからといつて、これによつて本件商標の登録取消の審判を請求する利害関係を有しないと認めることはできない。

したがつて、被告には本件審判を請求する適格がないとする原告の主張は採用できない。

2  成立に争いのない甲第四ないし第六号証、第七号証の一ないし四、第一一号証によれば、原告は、昭和六〇年三月一五日以降昭和六二年一〇月二〇日までの間訴外山武計装株式会社に対し本件商標の付された管継ぎ手を販売し、同社は右管継ぎ手を部品として組み付けた加湿器(商品名)「ダンプエース」を販売していること、右加湿器は、加湿器本体においてつくられた水蒸気をヘツダ(ノズル付)より噴出させ、特定の空間を適当とする湿度に保持する装置であつて、商標法施行規則別表第九類「化学機械器具」に相当するものであることが認められる。

右認定事実によれば、本件商標は化学機械器具に区分される商品である加湿器の部品としてその一要素を成す管継ぎ手に使用されているにすぎず、これをもつて化学機械器具に区分される商品に使用されているとすることはできない。

原告は、このような場合に第三者がその加湿器やその部品に本件商標と同一の商標を使用するならば、正常の取引状態は破壊され、取引者又は需要者に混乱と被害を及ぼすことになるから、本件商標は指定商品である「化学機械器具」に使用されているというべきである旨主張する。

商標法は、商標を、自己の商品と他の商品とを識別し、かつ他の商品との出所の混同を防止する機能を有するものとして保護している(同法第一条、第二条参照)であるから、同法第五〇条の規定により登録商標をその指定商品に使用しているかどうかは、商標法における商品、すなわち、商取引の目的物としての流通性を有するものに登録商標が使用されているかどうかという点から検討されなければならない。

ところで、商標法施行規則第三条及び別表によれば、同法施行令第一条の規定による商品の区分に属すべき商品の第九類には、「機械要素」として「七 管継ぎ手」が示されていることから明らかなように、管継ぎ手は、それ自体独立して商取引における目的物としての流通性を有するものであるから、特定の登録商標を管継ぎ手に使用するときは、独立の商品たる管継ぎ手についてその商標を使用しているものとされるが、右管継ぎ手が機械器具の部品として用いられ、他の部品とともにその機械器具の一要素を成すときは、商取引の目的物として流通するものは、その機械器具であつて、管継ぎ手ではない。すなわち、管継ぎ手は部品として機械器具に組み込まれることによつて商品としての独立性を失うに至るものである。

したがつて、管継ぎ手に本件商標を使用しているからといつて管継ぎ手それ自体とは独立の商取引の目的物たる化学機械器具について本件商標を使用していることにはならないというべきである。そして、このように解しても、同種の商品について同一又は類似の商標の使用を許容することにはならないから、これによつて商取引上の混乱を生じ、取引者らに被害を及ぼし商標保護の目的に反する結果を招来するとは考えられないのであつて、原告の前記主張は理由がない。

そして、ほかに本件商標が本件審判請求の登録日である昭和六一年四月二八日前三年以内に化学機械器具に区分される商品に使用されていることを認めるに足りる証拠はない。

そうであれば、本件商標は、本件審判請求の登録前三年以内にその指定商品中「化学機械器具」について使用をしていたとは認められないから、この点に関する審決の認定、判断に誤りはない。

3  以上のとおりであるから、「本件商標の登録は、その指定商品中「化学機械器具」について、商標法第五〇条第一項の規定により、取り消すべきもの」とした審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はないというべきである。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤井俊彦 竹田稔 塩月秀平)

別紙

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